〈迷子の栞〉

 祖母の家の暖炉の炎は熱を持ち、近年ではめったにお目にかかることのできない、正真正銘の酸化現象を維持している。思わず見惚れてしまう一瞬にも赤と橙とが移り変わり、風の留まったような姿形がそこにある。
 ガスのコンロ、ヒーター、或いは燐寸、ライターその他のものは、今や完全に淘汰され、火を見る機会など滅多にない。それらについて尋ねると、決まって勿体ぶっているのかと思われるような数拍の後、自殺の道具よ、という答えが返ってきた。そういうときの祖母はというと、口を尖らせ、ほんの子どもと変わらない強情そうな瞳をしていたものだった。