〈花咲み〉試し読み

 出掛ける気のする夜。酒と煙草の為だけにでも、出掛ける気のする夜。ところがいざ外に出てみれば、昼ほど温くもない。熱は何処へ行った。気紛れなものだ。けれど凍みるほど張り詰めてもいない。真冬の夜は押し潰されそうにもなるものだが。四季、移り変わるのは夜の密度だ。

 早々に店仕舞いする出店のちまきをつまむ代わりにバーを二軒梯子した。一軒目、酒の所為で体が冷える。これでは煙草など吸えっこない。二軒目、酒の所為で体が火照る。地球に愛想を尽かされる。これは夢だ。芯のない頭で夢を見ている。いい気分である。月は如何か。雲は如何か。突き抜け星まで落ち行く空。上ばかり見ていると黒が近づく。茂る黒。緑には見えない。躓いた足が鈍く響く。人影のない裏道、十字の並ぶ墓地の脇、くの字に折れ曲がっている。この段々坂は割にきつい。数段上に腰掛けた先客が、じっとこちらを見下ろしている。

 

  こんばんは。

 

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